はじめに
北里大学では、有用な生物活性を有する新規天然有機化合物が数多く発見されています。その生物活性は様々であり、今後の医薬品や生化学的試薬としての利用が大変期待されているものばかりです。しかしながらこのような天然有機化合物は、生産量が少なかったり、立体化学が不明であったり、毒性を伴っていたりと弱点を抱えているものも多く、今後の開発を断念している新規天然有機化合物が多く存在しているのも実状です。
そこで私達は、これらの新規天然有機化合物が抱えている問題点を解決するためにも、全合成研究を基盤とし、一つ一つ問題点を解決して、今後の医薬品や生化学的な試薬として利用できるようになるよう日々研究を続けています。
有用な生物活性を有する天然有機化合物の全合成および構造活性相関研究 (創薬研究)
有用な生物活性を有する天然有機化合物の全合成 (市販の安価な試薬から人工的にその化合物を合成すること) を行います。本研究が達成されることにより、未知であった絶対立体位置の決定や低生産性の天然物であっても大量供給が可能となります。
また全合成経路を応用することで、優れた生物活性の向上や毒性等の副作用の軽減、水溶性の向上などを目指した、天然有機化合物を基盤とする創薬研究も進めていきます。大量取得可能な天然有機化合物の場合はこれを原料とすることもあります。
最終的により優れた生物活性を有する新規化合物を創製し、今後の医薬品や生化学的な試薬としての利用を目的に研究を進めています。
新規合成法の開発と全合成への応用
全合成研究を行っていると、「思いもよらない反応が進行し、目的の生成物を合成できなかった」ということに良く直面します。しかし逆にそれらの反応を精査し、他の基質への一般性などを検討することで、新しい反応や特定の化合物の効率的な合成法を確立することができます。このような反応を見出せた場合、その反応の特徴をうまく行かせる構造を有する天然有機化合物を標的として選び、効率的に全合成を達成することを目的に研究を進めています。
ACAT2選択的阻害剤 pyripyropene A を中心とした多角的な研究
私達が行っている研究の一例として、北里で発見された唯一のACAT2選択的阻害剤であるpyripyropene A を中心とした研究を紹介します。まず天然物を出発原料とした構造活性相関研究を行い、天然物の活性ならびにアイソザイム選択性を大きく上回る新規誘導体を見出しました。また、その構造活性相関研究の途中で新規反応 (フッ化アンモニウムを用いたシリレンアセタールの位置選択的な脱保護法) を発見し、その汎用性を検討しました。更にpyripyropene A の全合成を達成し、その全合成経路を応用することで、天然物から導くことのできない新規誘導体を合成しました。本研究で見出した誘導体群は動物実験でも良好な結果を示していることから、新規脂質異常症予防治療薬の候補化合物として期待されています。